施術集

2022.09.15

硬膜外ブロック

硬膜外ブロックとは脊椎(背中の柱状になった骨、背骨)の中の硬膜外腔(脊髄神経を取り巻いている硬膜の外側にあるスペース)に局所麻酔薬を注入して脊髄神経の伝達を一時的にブロック(遮断)する方法です。ペインクリニックでは非常に多く施行されている手技です。
交感神経、知覚神経、運動神経を一時的に遮断します。この注射を繰り返すことにより首から下のいろいろな痛みやしびれを治して行きます。
この注射を受けますと、次のような症状が起こります。

  1. ブロック(遮断)された神経の支配している部分が温かくなる。
    (血管が拡張して血液の循環が良くなる。これは交感神経が遮断されたためです)
  2. 皮膚の感覚が鈍くなった感じがする、痛みが鈍くなる。しびれた様な感じがする。
    (腰からの注射なら足腰、胸からの注射なら胸腹、首からの注射なら上肢。これは知覚神経が遮断されたためです)
     
  3. 局所麻酔薬の濃度が濃い時は腰からの注射なら足が、首からの注射なら手や上肢が動きにくくなることがあります。これは運動神経が遮断されたためです。

しかし、これらの症状は一時的で局所麻酔薬の作用が切れると元に必ず戻りますので心配いりません。この注射を受けた方は約30〜40分程度ベッドにて安静にしていただきます。これでもしびれが残っている方は回復するまで休んで頂きます。必ず、この注射によるしびれなどは回復しますので心配しないでください。ただ自動車や自転車の運転は危険ですので十分注意してください。
局所麻酔薬の効果がなくなっても痛みの程度が低下した状態が続くなら「硬膜外ブロックは有効」と判断します。これは痛みを伝える神経を強力に遮断すると遮断がなくなっても痛みの軽減が続くという「痛みの悪循環」がなくなるからと考えられています。通常の痛み止めの薬とは作用機序が全く異なります。
痛み止めの薬は全身作用がありますが硬膜外ブロックは局所麻酔薬の作用する部位のみですので全身作用はありません。

合併症

  1. 硬膜穿刺針(ブロック針)が硬膜より深い所に入り、くも膜下に局所麻酔薬が入ることがあります。多くの場合、医師が気づきます。薬が効き過ぎることになります。テストの薬をまず入れますので、すぐに身体が温かくなったりしびれが出て来たらすぐ申し出てください。テストの量では効き過ぎにはなりません。また、頭痛が出現することがあります。横になっておれば頭痛はなく、立てば頭痛が出現します(立位性頭痛)。
  2. 出血、血腫血の固まりにくい人、血が固まらないようにする薬を飲んでいる人に、稀に起こることがあります。
  3. 感染局所麻酔薬には抗細菌作用がありますが、持続硬膜外ブロックでは起こることがあります。
  4. 神経根穿刺ブロック時に強い放散痛があります。ステロイドを注入して神経炎を予防します。

硬膜外ブロックの適応(どういう疾患におこなうか?)

1.全部位に関する疾患

帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、悪性腫瘍による痛み、手術後創部痛

2.頸部硬膜外ブロック

頸椎椎間板ヘルニア、頸椎症性神経根症、頸椎椎間関節症、外傷性頸部症候
群、頸肩腕症候群、上腕神経叢神経炎、頸性頭痛、胸郭出口症候群、上肢の
血行障害、上肢複合性局所疼痛症候群、上肢幻視痛や断端痛、 など

3.胸部硬膜外ブロック

開胸後症候群、軟治性肋間神経痛、胸椎椎間板ヘルニア、胸部神経根症、圧
迫骨折後痛、外傷後胸部痛、胸椎椎間関節症、腹部内蔵痛、乳房切除後症候
群、など

4.腰部硬膜外ブロック

腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎分離滑り症、椎間板性腰痛、根性
膝部痛、圧迫骨折後痛、腰椎椎間関節症、下肢複合性局所疼痛症候群、下肢
幻視痛や断端痛、下肢の血行障害、下腿潰瘍、月経困難症、通風発作、など

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透視下頸部硬膜外ブロック


透視下右頸部硬膜外ブロック

5.仙骨部硬膜外ブロック

尾骨痛、肛門部痛

 

2022.09.14

神経根ブロック

神経根ブロック(ルートブロック)とは脊椎(背中の骨)から出る神経の根元に直接もしくは神経周囲に局所麻酔薬とステロイド(炎症や浮腫をとる薬)を注入して神経の伝達を一時的に遮断して痛みを取るブロックです。また神経根ブロックに先立って選択的神経根造影を必ず行います。神経を造影することによって痛みの原因となっている神経の走行、圧迫等の異常がないかも同時に調べられます。
神経根ブロックはレントゲン透視をみながら行います。ブロックにかかる時間は場所、人によって異なりますが約10分程度かかります。一番大事なことはブロックする時の体位がきちんととれるかどうかです。体位がとれれば数分以内に終了します。

ブロック時の体位

頸部神経根ブロック(後方斜位法)--痛い方を上にした横向きで背中に枕を入
れてそれにもたれかかる様な斜めの体位。
胸部・腰部神経根ブロック(腹臥位法)ーーうつむきで針を刺す場所を水平に
するため胸もしくは腹部の下に枕を入れます。
他に斜位法(痛い方を上にした斜めの体位)もあります。

神経根ブロックの手順

  1. 体位がとれれば透視を見ながら針を刺す場所を決めます。
  2. 皮膚消毒を行い、清潔シーツを被せます。
  3. 局所麻酔薬で皮膚から針を刺す場所に浸潤させます(痛み止め)。
  4. ブロック針を刺入します。
    (A:胸部・腰部神経根ブロックB:頸部神経根ブロック)
    A:神経近傍に針先が来たら造影剤を注入し神経根周囲に針先があり神経根に沿って造影剤が硬膜外腔に流入する事を確認します。圧迫感を感じることがあります(この時神経根に直接当たって放散痛がおこる可能性はあります!)。
    B:神経に当たると「ピリッー」といつものところに痛みが走ります(再現痛)。そして造影剤を注入します。痛みのあるところに放散痛、圧迫感があります。
  5. レントゲン写真を撮影します。
  6. 局所麻酔薬とステロイドの混合液を注入します。注入し始めると「スッー」と痛みがなくなります。
  7. ブロック針を抜いて終了します。
  8. 処置台で約1時間程安静にしていただきます。腰部神経根ブロックでは下肢が、頸部神経根ブロックでは肩から手がしびれています。動きにくい事もありますが時間が経てば必ず戻ります。手、下肢が十分に動き、しびれがとれたら帰宅していただきます。
  9. 痛みの走った部位に2-3日痛みやしびれが残る事がありますがほとんどの方はその数日後におさまります。おさまらない時はその由を医師に申し出てください。この神経根ブロックは効果があれば劇的ですが、硬膜外ブロックと異なりそう頻回には出来ません。学会基準では10~14日空けて1ヶ月間に3回を限度とする、となっています。神経根ブロックは有効であるが効果が持続しない場合は神経根高周波熱凝固法を行う事があります。

合併症

1:頸部神経根ブロック

椎骨動脈穿刺による出血--動脈に針が通るとしっかり圧迫しないと内出血を
起こす事があります。

2:胸部神経根ブロック

気胸ーー肺の方に針が行った時に起ります。胸痛、呼吸が苦しくなる。
レントゲン写真を撮影します。

3:頸部、胸部、腰部神経根ブロック

くも膜下穿刺--針が脊椎の内側に入り過ぎると稀に起る。造影剤、テストの
薬で幅広くブロックが起こります。
神経根の損傷、神経炎--ブロック前から神経根の障害が高度な人、短時間に
頻回に神経根ブロックを行うと起る事があります。
他に感染などの合併症が起る事もあります。
 

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右第6頸神経根ブロック(後方斜位法)


右第6頸神経根ブロック(正面像)


右第5胸神経根ブロック

2022.09.13

経椎間孔性頸部硬膜外ブロック

 当院では頸部硬膜外ブロックは安全性、確実性のためにレントゲン透視下で施行してきました。それでもなお硬膜穿刺、硬膜外血腫などの合併症の可能性がありました。最近、神経根周囲から椎間孔を通して硬膜外腔に薬剤を注入する経椎間孔アプローチによる頸部硬膜外ブロックが開発され施行される施設が出てきました。当院でもより安全性、確実性を高めるため従来の透視下頸部硬膜外ブロックに加えて経椎間孔性頸部硬膜外ブロックを行う事になりました。
第1/2胸椎椎間孔から刺入する方法で頸椎下部の病変に対しては安全でかつ有用な治療法です。

 手技の実際

  1. レントゲン透視下で行います。体位は胸の下にパッドを入れた腹臥位(うつむき)で、両腕は脇腹に付けた格好になります。
  2. レントゲン透視で刺入部位を確認、マークを付けます。皮膚消毒、清潔シーツを被せます。
  3. 23-25ゲージのカテラン針で局所麻酔しながら刺入して行きます。
  4. 肥えた人で針が十分届きにくい時は10cmブロック針を使う事もあります。
  5. 目的部位に達したら造影剤を注入します(このとき腕に響くことがあります)。レントゲン写真を撮影します。局所麻酔薬2-5mlとステロイド2-4mgを注入して終了します。
  6. 注入後ベッドで安静にしていただきます。
 
利点*片側に疼痛にある場合はより安全確実で有効率が高い。硬膜穿刺を防げる。脊椎外で血腫が出来ても保存的に治療が出来て致命的な合併症が起こしにくい。
 
欠点*片側にしか効果がない。頸椎の上部には薬が届きにくい。
   気胸、神経根損傷の可能はある。
 

経椎間孔性頸部硬膜外ブロック


右T1/2経椎間孔性頸部硬膜外ブロック


左T1/2経椎間孔性頸部硬膜外ブロック

 

2022.09.12

腰部神経根加圧注射

通常の神経根ブロック時に行う神経根造影で椎間孔(神経根が脊椎から出てくる所)から脊椎内で造影剤が閉塞・陰影欠損(造影剤が映らない)のところがあり、神経根ブロックが一時的に効果あってもまだ痛みが残っている、痛みがまた出て来た時に行います。神経根周囲に癒着がある(手術後など)、神経根への圧迫が強い(椎間板ヘルニアが大きく直接圧迫している、脊柱管狭窄が強いなど)状態が考えられます。そのような時に生理食塩水で神経根周囲を加圧・癒着剥離を行う神経根加圧注射を行ないます。

施行順序

  1. 腰部神経根ブロックと同様に腹臥位(うつむき)で針を刺す場所を水平にするために腹部の下に枕を入れます。他に斜位(痛い方を上にした斜めの体位)になる事もあります。
  2. レントゲン透視を見ながら針を刺す場所を決めます。
  3. 皮膚消毒を行い、清潔シーツを被せます。
  4. 皮膚から針を刺す場所に局所麻酔薬を浸潤させていきます(痛み止め)。
  5. 針を刺入させていきます。
  6. 神経根近傍に針先が来たら造影剤を注入し、神経根周囲に針先があり神経根に沿って造影剤が椎間孔外・椎間孔・椎間孔内方向に流れる事を確認します。
  7. レントゲン写真を撮影します。
  8. 局所麻酔薬とステロイド混合液を注入します。
  9. 生理食塩水10mlを注入します。注入して行くと注入圧が高くなることが多いようです。加圧と同時に強い圧迫感を感じることがあり。痛みと感じる事もあります。注入圧が高くなり過ぎるようならその時点で加圧を中止・終了します。
  10. 1加圧前に注入した同量の造影剤を注入します。造影剤の広がりを確認します。加圧後造影剤の流入がアップしている・上方に広がっている・上位椎間板を超えて上方に広がっている造影所見が得られれば効果が期待できます。
  11. 加圧前に注入した同量の局所麻酔薬とステロイド混合液を注入して、針を抜いて終了します。
  12. 処置ベッドで安静にしていただきます。安静時間は通常の神経根ブロックより約2倍の局所麻酔薬を使用しているので長い目になります。十分に下肢に筋力回復ししびれもなくなれば帰宅していただきます。


左第5腰神経根加圧注射前


左第5腰神経根加圧注射後

合併症および副作用

  1. 硬膜穿刺:針が脊椎の内側に入り過ぎると稀に起こる可能性はあります。造影剤を注入で確認できます。加圧注射施行は中止します。
  2. 神経根の損傷・神経炎:ブロック前より神経根の障害が高度な人や短期間に頻回に行うと起こることがあります。神経根加圧注射を再度行うとしても数ヶ月後になります。
  3. ブロック時に痛みの走った部位に痛みやしびれが残ることがあります。ほとんどの方は数日後には治まりますが、治らない時はその由を申し出て下さい。
  4. 出血、感染症などが起こる可能性があります。
  5. 他に神経根ブロックと同様の合併症・副作用があります。
  • きのしたペインクリニックでは神経根加圧注射は、月曜日、火曜日、金曜日の15時30分からと17時30分から施行していますが、神経根ブロックで長時間安静を必要とした方は出来るだけ15時30分からの枠をお願いします。
  • 腰部神経根加圧注射のみ施行します。頚部・胸部神経根加圧注射は脊髄圧迫の可能性を否定できないので施行しません。
  • 神経根加圧注射でも効果が少ない場合は神経根パルス高周波法、ラッツ・カテーテル使用による硬膜外神経癒着剥離術(硬膜外神経形成術)に治療を移行することもあります。

2022.09.08

神経根パルス高周波法

神経根パルス高周波法(PRF:pulsed radiofrequency)とは42度C以下で高周波を間欠的に発生させることで電場を発生させ、神経に作用し、鎮痛作用をもたらす方法である。パルス高周波法は神経組織の変性を起こす可能性は極めて低く合併症が少ないとされています。
神経根パルス高周波法は500キロヘルツの高周波電流を20ミリ秒出力、480ミリ秒休止を2回/秒の頻度で電磁場をかけて痛みを軽減させる治療法です。高周波熱凝固法とは異なり温度は42度C以上にはなりません。熱により神経組織が凝固する訳ではありません。電磁場による作用が大きいとされています。

施行手順

  1. レントゲン透視下で行います。体位は通常の神経根ブロックと同じで、腰部・胸部ならうつむき(枕を入れて水平にします)か無理なら痛い方を上にした斜めになります。頚部なら痛い方を上にした斜めになります(斜位法)。
  2. 左ふくらはぎに対極板を貼りつけます。
  3. 皮膚を消毒し、局所麻酔薬を針の刺す場所に浸潤させます(痛み止め)。
  4. 電極用の針(スライター針)を皮膚からレントゲン透視を見ながら刺入します。神経根ブロックと同じ神経根が脊椎から出てくる所に針先を誘導して行きます。
  5. 造影剤を注入し神経根であることを確認します。この時に痛い所に放散痛が生じることがあります。低電圧(0.3V以下)で刺激する事があります。目的とする神経が支配している筋肉の攣縮(ピクピク動く)や再現痛(いつもの痛い所に痛みが走る)を確認します(当院では施行しないこともあります)。抵抗値測定で神経根組織であることを確認します。
  6. 局所麻酔薬を注入して、数分後にパルス高周波法を開始します。施行中パルス波に同期して筋肉収縮が出たり、神経に沿って痛みが発生する事があります。その時は出力を低下させるか、開始をもう少し待ちます。当クリニックでは360秒間施行します。従前は120~180秒でしたが360秒施行が有効性の高い事が確認されています。6分間身体を動かさずにじっとしている事が一番つらいかもしれません。
  7. 当院では通常より濃度の高い局所麻酔薬を少量ですが使います。やや長い目に休んで頂きます。
 

 
右第5腰神経根パルス高周波法

電磁場の鎮痛作用の機序はまだ明らかになっていませんが、1)神経細胞の微細構造を変化させ、神経細胞の機能を変化させる2)痛みに対する下降性抑制系を賦活させる3)炎症性サイトカイン産生を抑制する、などが報告されています。
鎮痛効果はすぐに現れることもありますが2-3週経ってから効果が出てくることも多いように思います。
このブロックは効果に蓄積作用があり複数回施行することも必要なこともありますが保険診療上の制約があります。

適応症
  • 難治性頸肩上肢痛、腰下肢痛(局所麻酔薬での神経根ブロックは効果を認めるがすぐに痛みが再発する人)
  • 帯状疱疹後神経痛、複合性局所疼痛症候群、癌性疼痛
  • 通常の高周波熱凝固法では施行不可能である胸腹部の帯状疱疹後神経痛、脊髄
  • 圧迫骨折などによる根性肋間神経痛
  • 後頭神経痛、慢性膝関節痛(将来の可能性)

現在は当院の人的・時間的な制約や入院設備がない事などにより神経根ブロックは効果を認めるが再発する腰下肢痛に限定しております。

副作用・合併症

筋力低下、知覚障害、運動麻痺は高周波熱凝固に比べて生じにくいがゼロはない。
穿刺に伴う感染、出血、穿刺部痛。神経炎、神経損傷、くも膜下穿刺、血管穿刺、対極板接触不良による熱傷など通常の高周波熱凝固法と同じような合併症があります。
他に神経根ブロックと同様の合併症の可能性があります。

きのしたペインクリニックではパルス高周波法は月曜日、火曜日、金曜日の15時30分枠の最後に原則として1人のみ行います。

 
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きのしたペインクリニック

  • TEL : 079-227-3687
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  • 予約専用:079-322-3227

〒671-1321
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